【新刊紹介】田中秀雄『石原莞爾の時代』(芙蓉書房出版)

姉妹編『石原莞爾と小澤開作』も同時刊行

石原莞爾を遠景において、昭和史の激動を人間模様で描く
波瀾万丈の歴史を冷徹に冷静に考証学的に叙した傑作

【6月21日発行 宮崎正弘の国際ニュース・早読み「今週の書棚」(第2227号)】

 二日がかりで読み終わっての第一印象はと言えば、これを小説にしたら、もし北方謙
三あたりがノベライズして近代の『水滸伝』のように日本と中国を股にかけた大陸浪人、
東洋のマタハリ、匪賊に強盗団、対照的な満鉄エリート、理論家、国民党、共産党、そ
の間隙をぬうスパイ、悪徳商人。

 なんとも波瀾万丈の人生が描かれるのではないかと思ったのは、チト読後感としては
不謹慎かも知れない。

 満州浪人を題材にとった活劇的な小説はやまほどあるが、小生が最高傑作と思うのは
檀一雄『夕日と拳銃』(伊達順之助がモデル)。また当時の政治社会情勢がビビッドに
描かれているのは松本清張の絶筆となった『神々の乱心』(文藝春秋)だ。(松本は歴
史観が左翼だが、遺作はなかなかの傑作です)。

 さて本書は石原莞爾を主人公と題しながらも、石原は遠景にある。

 生き生きと本巻で描かれるのは周辺にいて石原と深く交わった黒龍会の内田良平であ
り、仏教の碩学・田中智学であり、戦後ベストセラーを書いて参議院議員にもなった辻
正信であり、板垣征四郎であり、川島浪速であり、大川周明である。ほかに戦後も活躍
した木村武夫もでてくる。岸信介もちょっと顔を出す。

 みんなそれぞれが単独で小説の主人公になる一癖二癖の持ち主、佐野真一が書いた甘
粕なんて比じゃないって。

 大設計図をもとにして満州の国家経済を設計した影の主役は宮崎正義であり、裏面で
は中国人コミュニティへ深く関与して誠意と理想のために奔走して死刑になった伊達順
之介であり、孫文を助け、最後には孫文に裏切られて散った多くの血気盛んな日本人の
物語である。

 それにしても本書に宮崎正義がでてくるとは思わなかった。(宮崎正義に関しては小
林英夫『「日本株式会社」を作った男』<小学館>に詳しい)。

 以前、小生が金沢出身と聞いて、「もしかして、宮崎正義さんのお子さん?」と問わ
れることがあった。石原莞爾と宮崎正義は昭和五年頃に満州で知り合った。宮崎はハル
ビンに長くあって、ロシア語を苦もなく操ったという。

 この昭和を駆け抜けた偉人と小生とは縁もゆかりもない、単に郷土だけが同じという
関係だが……。

 そういえば国民党幹部からは二十年ほど前に台湾へ行くたびに、「宮崎滔天先生のご
親戚か?」と聞かれて苦笑したこともある。(この宮崎三兄弟とも無縁です)。

 ともかく第一章の主人公は石原でありながら、実際は内田良平のことに収斂されてい
る。

 第二章の「シュンペンター」では、小生まったく知らなかった事実が叙されている。

 シュンペンターと言えば、ケインズとならぶ経済理論の祖にして、ルーズベルト大統
領の対日政策に真っ向から反対した大経済学者、若き日に何冊か読んだ記憶があるが、
夫人のエリザベスが、満州の経済と産業の研究家であり、しかも満州建国に肯定的であ
り、ルーズベルトを批判していたとは知らなかった。

 昭和十七年に彼女の編著の翻訳が半分、日本でもでていた。

 夫妻の遺言によって戦後、シュンペンター夫妻の膨大な蔵書が、はるばる海を越えて
一橋大学に寄贈されていたことも初めて知った。

 ともかく小生にとっては関心のある分野だけに面白かった。田中さん、有り難う。


 田中秀雄氏は本会会員でもあり、台湾研究フォーラムの運営委員でもある。10年以上
もこのテーマを暖めて資料収集に励みつつ読み込んで出版に至った、この労作であり傑
作の『石原莞爾の時代』と同時に、姉妹編として、満洲建国後の石原莞爾を小澤開作と
の関係から描いた『石原莞爾と小澤開作』も刊行している。

 『石原莞爾の時代』には、戦後、重慶にあった蒋介石宛に石原が手紙を書いたことも
出てくる。少しだけだが228事件についても触れている。台湾問題を俯瞰する意味で、
台湾関係者にも両書をお勧めしたい。                 (編集部)

■書名 石原莞爾の時代─時代精神の体現者たち
■著者 田中秀雄
■体裁 四六判、並製、本文264ページ
■版元 芙蓉書房出版 http://www.fuyoshobo.co.jp/
■発行 平成20年6月25日
■定価 1,995円(税込)

■書名 石原莞爾と小澤開作─民族協和を求めて
■著者 田中秀雄
■体裁 四六判、並製、本文280ページ
■版元 芙蓉書房出版 http://www.fuyoshobo.co.jp/
■発行 平成20年6月25日
■定価 1,995円(税込)


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