【広辞苑誤記問題】 広辞苑「日中共同声明」解説に誤り  浅野 和生(平成国際大学教授)

『広辞苑』第7版への批判が止まない。岩波書店がその帯文に「辞典といえば広辞苑」「日本語辞典の代名詞」「堂々登場」「10年ぶりの最新版」と大書して売り出したにもかかわらず、聴こえてくるのは批判の声ばかりだ。

 「辞典といえば広辞苑」「日本語辞典の代名詞」とはいささか「手前味噌」であろう。手前味噌とは『広辞苑』によれば「得意に思っている箇所」とあり、自画自賛、自分で自分をほめているのだが、実際には味噌を付けまくっている、つまり「しくじる。失敗する。面目を失う」(広辞苑)という状態だ。特に、台湾に関する記述では批判が鳴りやまない。

 このたびも、台湾や日台関係を専門の一つとする平成国際大学の浅野和生(あさの・かずお)教授から「『日中共同声明』解説に誤り」「台湾の帰属でも事実を誤認」と批判を受けている。

 浅野教授はまず、帯文に注目して「このような『美称』を自ら名乗るのはいかがなものか」と釘を刺してから、「台湾に関連する記述の大きな誤り」について指摘している。それが「日中共同声明」の項だ。

 「日中共同声明」の項で浅野教授が批判しているのは「戦争状態の終結と日中の国交締結を表明」と「台湾がこれに帰属することを実質的に認め」の2点についてだ。岩波側も、この鋭い指摘にはまともな反論はできまい。

 恐らく岩波側は、昨年12月22日にホームページで「読者の皆様へ――『広辞苑 第六版』「台湾」に関連する項目の記述について」で述べているように「小社では、『広辞苑』のこれらの記述を誤りであるとは考えておりません」として、「こういう解釈に立つ」として自己弁護する、解釈に逃げ込むしか道はないものと思われる。

 なお、浅野教授の指摘をよりよく理解するために『広辞苑』第7版における「日中共同声明」の記述全文を下記に紹介しておきたい。

              ◇     ◇     ◇

【日中共同声明】一九七二年九月、北京で、田中角栄首相・大平正芳外相と中華人民共和国の周恩来首相・姫鵬飛外相とが調印した声明。戦争状態の終結と日中の国交締結を表明したほか、日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と承認し、台湾がこれに帰属することを実質的に認め、中国は賠償請求を放棄した。

—————————————————————————————–平成国際大学教授 浅野 和生広辞苑「日中共同声明」解説に誤り 国交締結ではなく正常化 台湾の帰属でも事実を誤認【View Point:2018年2月12日】

 「辞典といえば広辞苑」「日本語辞典の代名詞」とは、去る1月12日に10年ぶりの改訂新版が出た広辞苑の帯のうたい文句である。出版社も商売だから、「売らんかな」のキャッチフレーズをつけるのは自由だが、このような「美称」を自ら名乗るのはいかがなものか。

 さて、広辞苑の新版が上梓(じょうし)されて間もない25日、岩波書店は、「LGBT」と「しまなみ海道」の解説に誤りがあったとして、謝罪とともに訂正する旨を発表した。しかし、台湾に関連する記述の大きな誤りについては訂正する動きがない。

 遡(さかのぼ)れば10年前の第6版(2008年1月11日発売)まで、「日中共同声明」の項目は、「一九七二年九月、北京で、田中角栄首相・大平正芳外相と中華人民共和国の周恩来首相・姫鵬飛外相とが調印した声明。戦争状態終結と日中の国交回復を表明したほか、日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め、台湾がこれに帰属することを承認し、中国は賠償請求を放棄した」とされていた。20年前の第5版(1998年11月11日発売)も同じである。

 しかしながら、実際は、共同声明第3項で、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明」したが、これに対して日本政府は「この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」するとして、「承認」する立場をとらなかった。これについては、声明発表翌日、大平正芳外相が自民党両院議員総会において「承認する立場をとらなかった」と明言し、「両国が永遠に一致できない立場を示した」とまで述べている。

 こうした指摘を受けた岩波書店は、2011年1月11日発売の第6版第2刷で、後段を「戦争状態の終結と日中の国交締結を表明したほか、日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め、台湾がこれに帰属することを実質的に認め、中国は賠償請求を放棄した」として、「承認し」を「実質的に認め」に改めた。このたびの第7版では、「日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め」の「認め」を「承認し」に変えた以外は前回のままである。

 以上のごとく、1972年の日中両政府の合意について、広辞苑は「日中の国交回復」あるいは「日中の国交締結」と解説したが、実は「戦争状態の終結と日中国交の正常化」であり、「両国間にこれまで存在していた不正常な状態に終止符を打つこと」である。これは、52年4月28日の、「日華平和条約」が、日本国と中華民国との戦争状態の終結と国交の回復を定めたこと、さらに付属の交換公文によって、「この条約の条項が、中華民国に関しては、中華民国政府の支配下に現にあり、又は今後入るすべての領域に適用がある」ことを双方が了解したことによる。

 つまり、吉田内閣は、中華民国政府が、実際には台湾のみを領有、支配していても、いわゆる中国の代表権を持つものと認めるとともに、もし中華民国政府が将来において中国大陸を統合することがあれば、この条約がただちに中国全土を対象とするものとなると了解した。これによって日本政府は、蒋介石の中華民国政府との平和条約をもって、日中間の戦争の終結と「日中」の国交回復としていたのである。

 こうして、すでに「日中」の国交は存在していたのだから、72年の両国政府の合意は、「国交回復」や「国交締結」ではなく「日中国交正常化」でなければならなかったのである。広辞苑の記述はこうした経緯を無視しており、不適切である。字数制限のある「辞書」では、以上のような詳細の記述ができないから、両国政府の合意の通り、「日中国交正常化」と書けばよいのである。

 また、台湾が中国に帰属することを「実質的に認め」という文言も事実に反する。

 広辞苑によれば、「実質的」とは、「実際に内容が備わっているさま。また、外見や形式よりも内容・本質に重点をおくこと」である。もし、日本政府が、台湾が中国に帰属することを「実質的に認め」るのであれば、日本は、中国とは合意していないワーキングホリデーについて台湾と合意したり、中国人には認めていない日本へのビザなし渡航を台湾人に認めたり、中国との間では合意がない自動車運転免許の相互承認をしたりしないであろう。明らかに日本は、台湾を中国とは別の実体として遇しているのである。たしかに日本と台湾の間には「形式的」には国交がないが、「外見や形式よりも内容・本質に重点をおく」なら、日台間に「実質的な」外交関係を見いだすことができるだろう。

 さらに昨年は、日台間の実務上の交流窓口機関のうち日本側の交流協会が、1月1日から日本台湾交流協会に、台湾側の亜東関係協会は5月17日から台湾日本関係協会へと、双方の主体を明示する名称に変更した。このことは、両国関係の「実質的な」レベルアップを反映したものであろう。事実に即せば、広辞苑は、「日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め、台湾がこれに帰属するという中国の主張に理解を示したが、台湾との実務関係は維持している」と記すべきである。

 広辞苑の編集者は、せっかく10年ぶりに新版を出版したのに、こうした変化の「内容や本質」を見なかったのであれば、残念至極である。

                                   (あさの・かずお)

              ◇     ◇     ◇

浅野和生(あさの・かずお)1959年(昭和34年)、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、同大学大学院博士課程修了。関東学園大学講師、同大助教授、平成国際大学助教授などを経て、2004年、同大教授に就任。法学博士。同大学大学院法学研究科長。2005年10月、日本版「台湾関係法」の私案として「日台関係基本法」を発表。

主な著書・共著に『大正デモクラシーと陸軍』『君は台湾のたくましさを知っているか』『日米同盟と台湾』『馬英九政権の台湾と東アジア』『台湾の歴史と日台関係』など。

編著に『日台関係と日中関係』『台湾民主化のかたち―李登輝総統から馬英九総統まで』『親台論─日本と台湾を結ぶ心の絆』『中華民国の台湾化と中国』『1895-1945 日本統治下の台湾』『民進党三十年と蔡英文政権』『日台関係を繋いだ台湾の人びと』など多数。

日本選挙学会理事、日本法政学会会理事、加須市行財改革推進協議会会長、日本李登輝友の会常務理事。


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