【対談】李登輝前総統・安藤忠雄氏─日台の未来 地球の未来(最終回)

読売新聞による李登輝前総統へのインタビューが掲載された4月4日、産経新聞が李前
総統と建築家の安藤忠雄氏との大型対談を2ページの見開きで掲載しています。

 李前総統は安藤忠雄氏とは初対面だったそうですが、講演や論考の中で安藤氏の仕事
ぶりに言及し、また、安藤氏は台湾では最も関心の高い建築家であり、司馬遼太郎記念
館や西田幾多郎の哲学館(石川県かほく市)などの設計を通じて、間接的に李前総統の
考えをよく理解していたようです。

 世界的な政治家と建築家、住む世界は異なるにもかかわらず、その世界観や価値観が
一致しているのは不思議な感じもしましたが、対談では「場所の論理」がキーワードと
なっていて、得心するところがあります。

 4つに分けている対談ですので、4回に分けてご紹介します。本日はその4回目(最終
回)をお届けします。                        (編集部)


【対談】李登輝前総統・安藤忠雄氏─日台の未来 地球の未来(最終回)
【4月4日 産経新聞】

 総統選挙によって8年ぶりに政権が交代する台湾。この政権交代の制度を打ち立てた
前総統の李登輝氏と、日本を代表する建築家の安藤忠雄氏が台北郊外にある李氏の私邸
で対談を行った。二人は初対面だったが、作家の故司馬遼太郎氏にかかわる思い出話か
ら打ち解けた。話題は日本や台湾にとどまらず、情報化社会の進展、地球環境など人類
全体が直面する問題に及んだ。          (司会 長谷川周人台北支局長)

■ 4 調和 人類は本当にがけっぷち 謙虚に生きていかねば

安藤氏
 バーチャルだけでは世界は成立しないはずなのに、経済一辺倒の価値観がそれを推し
進めています。例えば、不動産投機もバーチャル世界のようなものですが、それが現実
の人間の生活を不幸にしていることに人々は気づきません。マネーゲームはバーチャル
世界の拡大に拍車をかけ、ひいては地球温暖化をも加速させているように思えます。人
間生活の真の豊かさを考えなければ、結果的に22世紀まで人類が生き残ることはできな
いでしょう。

李氏
 日本文化がすばらしいのは、高い精神文化とともに、人間生活と自然がうまく調和し
ているところにあります。安藤先生の偉大な建築物も、外国から入ってきた建築の考え
方をもう一歩進め、自然の生活の中に取り入れようとする、実は日本的な考え方じゃな
いのか。そう思っていますよ。

安藤氏
 私は20歳のころ日本を一周する旅をしました。そして美しい棚田や山々、民家を見て
は心を打たれ、この国に生まれたことに感謝しました。ところが経済的繁栄と引き換え
に、そのすべてが失われようとしている。民族が持つ固有の論理を尊重する。これを取
り戻すことをこれからの指導者は考える必要があると思います。

李氏
 昨年5月に日本を訪ねたとき、松尾芭蕉の「奥の細道」をたどりながら、山形県や秋
田県を歩きました。そしてびっくりした。杉林の美しいこと! あれだけの造林はどこ
に持っていっても恥ずかしくない。私の専門は農業経済学で、総統時代は努力して成果
を上げましたが、台湾にはあんなすばらしい森はまだない。環境保全の問題は非常に大
切です。
 環境問題といえば、今年7月には北海道の洞爺湖で主要8カ国首脳会議(サミット)
が開催されますね。

安藤氏
 まさに環境会議となるわけですが、実は私、東京湾に浮かぶゴミの集積場に緑を植え
て「海の森」にするプロジェクトに参加しています。サミットで議長国となる日本は、
経済大国という側面ではなく、「環境立国・日本」を世界に訴えるべきです。そこで自
然と共に生きてきた日本人、すばらしい哲学をもった日本人を世界に発信したいと考え、「海の森」を世界中の人たちに見てもらおうと思っています。

李氏
 それはいい考えだ。

安藤氏
 ナポリではゴミの集積場が満杯になり市当局がゴミの回収をやめて街中がゴミだらけ。
これを見るまでもなく人類は本当にがけっぷちに立っている。あと一歩で生存まで危う
い事態に直面している。これを地球市民全員が意識することが必要です。先人の知恵に
学び、多様な価値観をこの地球上にとどめ、そして自然の中で人間が生かされているこ
とを自覚し、謙虚に生きていかねば。これからの時代、価値観は地球です。

李氏
 安藤さんみたいな大建築家にしても、最後に求めるのは永久の真理だ。これは難しい
よ。だが、何とかこれを表現しなくちゃいけない。またいらっしゃい。台湾の若者にも
話してやってほしいんだ。台湾は日本人から得ることがまだまだある。
                                    (終)


李登輝氏 1923年、台北県生まれ。43年、京都帝国大学農学部入学後に学徒出陣。戦後
 は帰台して台湾大学に編入。68年、米コーネル大学で農業経済学の博士号を取得。中
 国国民党に入党後、台北市長、副総統などを歴任、88年、蒋経国総統の死去に伴い総
 統に昇格。96年、台湾初の総統直接選挙で圧勝。2000年、国民党主席辞任後、党籍を
 剥奪され、独自の政治活動を繰り広げている。

安藤忠雄氏 1941年、大阪生まれ。69年、安藤忠雄建築研究所を設立。79年、日本建築
 学会賞、96年、高松宮殿下記念世界文化賞を受賞。91年にはニューヨーク近代美術館
 で日本人初の個展を開催。97年、東京大学教授、2003年から名誉教授。同年、文化功
 労者。代表作に「住吉の長屋」(大阪市)「六甲の集合住宅」(神戸市)「光の教会」
 (大阪府茨木市)など。


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