「李登輝先生会見記」藤井厳喜(『日台共栄』8月号)

特集は「台湾をめぐる教科書問題」

 先に日本李登輝友の会の機関誌『日台共栄』8月号の内容をご紹介しましたが(
7月30日、第205号)、ここに目次と藤井厳喜氏の「李登輝先生会見記」をご紹介
します。見本誌を送付希望の場合は、最後に掲げた要綱をお読みください。  
                                (編集部)


特集●台湾をめぐる「教科書問題」
中学歴史教科書では分らない台湾の実態●本誌編集部
台湾を中国領と教える中学校社会科地図●本誌編集部
台湾と私(8) 李登輝前総統と花蓮・太魯閣●大矢野栄次
インタビュー 私の「台湾体験」とこれからの日台関係●内田勝久
日台共栄前史(7) 黒潮が運んできた日本の南方文化的要素●黄 文雄
李登輝先生会見記●藤井厳喜
石川県と台南県の姉妹県交流をめざして●宮元 陸


李登輝先生会見記−現代の「プレスター・ジョン」

                  拓殖大学客員教授・本会理事 藤井 厳喜

 平成十七年三月二十三日、台湾は桃園県大渓にある別荘に李登輝前総統をお訪
ねした。一行代表は宮崎正弘さん、産経新聞OBの高山正之、花岡信昭の両ベテ
ラン・ジャーナリストの末席を汚して、小生が同行させていただいた。小雨煙る
中を午前十一時前に別荘着。SPもいて、さすがに前総統の身辺警護は厳重であ
る。
 前の訪問客が少し長引いたせいか、我々は少々バスの中で待つ事になった。
 李先生は、玄関に出て、大きな笑顔で小生ら一行を迎えて下さった。よく日焼
けされた顔は、いかにも健康そうである。小生が李登輝先生にお目にかかるのは
、これが三度目。一度目は淡水の台湾総合研究院で、二度目は台北市内の国賓ホ
テルであった。私は李登輝先生は、世界史の中の巨人であると確信している。そ
の方にお会いするとなると、やはり緊張する。
 接客用の大広間に通された。そこで嬉しい発見があった。書家の鈴木利男さん
の献呈した屏風一対が、李先生のソファーの両側に鎮座していたのである。
 向って左が確か「夏草や兵どもが夢の跡」、右が「荒海や佐渡によこたふ天河」
であった。言う迄もなく芭蕉の名句。自然、人情、歴史の一致した蕉翁の傑作で
ある。実はこの屏風一双、小生が曽て鈴木利男書伯よりお預りし、その名代とし
て台湾へ空輸して李先生に献呈する役を仰せつかったものであった。この折、こ
の一双に加え、『奥の細道』所収の五十一句にそれぞれ絵画を付したもの、計百
二枚の色紙をも献呈させて頂いたのであった。
 その事を申し上げると、前総統は和やかに「鈴木利夫様に宜しくお伝え下さい」
と小生に伝言されたのであった。
 応接間での話は、自ずと三月十四日に中共が公表した「反国家分裂法」に及ん
だ。前総統のお話は、概ね以下のようであった。
「あんなものは、台湾とは何の関係もないんだ。私が総統の時にすでに内戦は解
消しているんだよ」
「あんなものを出して、世界中から非難ばかり受けている。損な事だと分ってい
ながら、やらざるを得ない。これ(反国家分裂法)は、強さの表れではなく、弱
さの表れなんだ」
「胡錦濤というのも、大して能力のある人間じゃない」
 別荘地下の書庫を拝見させて頂いた。英文・中文よりもやはり日本文の書籍が
一番多いようだ。岩波文庫だけでもおそらく千冊は下らないのではないか。アト
ランダムに手にとった岩波文庫二、三冊いずれにも傍線や書き込みがあったのに
は驚いた。
 別荘に隣接のカントリークラブのクラブハウスで、昼食をご馳走になりながら
、李登輝学校の講義は、午後一時過ぎまで続いた。私はかねてから抱いていた疑
問を、李先生に直接たずねる機会に恵まれた。それは、先生の中において、武士
道とキリスト教がどのように結びついているのか、という疑問であった。李先生
は、最近名誉神学博士号を授与され、その記念講演を行なった事に言及された
(『日台共栄』第七号、「私は私でない私」参照)。
 そして次の様に言われたのが印象的であった。
「ふつうの人は、この世があって、あの世がある。現世で良く生きれば、天国に
ゆけると考える。だけど私はそれは考えない。あの世とこの世は別じゃあないん
だ。全てをこの世でやり切る。思いっきり自分の力を出して、理想の為に生きる
。その為にはキリスト教が、一番いいのです。若い頃に色々迷って悩んだけれど
ね。思いっきりやるにはキリスト教が一番いいんだよ」
 何とも強烈な信念にして思想である。深い内的体験が普遍化する事によって、
こういう思想として結実したのであろう。別の表現をするならば、これはクリス
チャン的武士道というよりは、武士道的キリスト教であり、禅的キリスト教であ
る、と思った。新渡戸稲造の真姿がそこにある様であった。日本人には、天皇で
あり民族共同体で十分かも知れないが、武士道の忠誠の対象により普遍的理想を
求めると、キリスト教にたどり着くという道も、理解可能である。
 中川宋淵老師に「不二見えてあの世この世の若菜摘む」の句があった。
 三島由紀夫の話が出た。宮崎正弘さんからの質問であったかと思う。先生はこ
うお答えになった。
「三島由紀夫はたしかに偉い。しかし、ああいった行動を皆に見習えといっても
無理でしょう。だから私は『武士道「解題」』を書きたいと思ったのですよ」ま
た「日本人を世界に分ってもらう為には、武士道と併せて芭蕉の美の世界を紹介
する必要があるので、これも是非やりたい」常に日本の為も考えて下さっている
のである。
 西洋にプレスター・ジョン伝説というものがある。欧州キリスト教世界がイス
ラム教の脅威に脅えていた中世、イスラム圏の後方、アジアの地にクリスチャン
の聖王がおり、キリスト教世界を救ってくれるという伝説である。李登輝先生こ
そ、まさに現代のプレスター・ジョンなのではないか。

【写真】桃園・大渓の李登輝前総統の別荘にて(右より、筆者、宮崎正弘氏、李
登輝前総統、曽文恵夫人、高山正之氏、花岡信昭氏。3月23日)


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