鉄道を通した日台友好の影にある秘話  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2017年6月27日号(第189号)】

 近年、日台の鉄道を通した友好提携のニュースをちらほらと見かけるようになりました。以前の
メルマガでも紹介しましたが、中には、西武鉄道、京急電鉄、東武鉄道、台湾鉄路4社局合同イベ
ントなどという大掛かりなものもありました。

 今年で開業10週年を向かえる台湾の新幹線「高鉄」は、日本の新幹線技術を用いて造られたこと
はよく知られています。2015年には、乗客の伸び悩みで経営破綻の可能性がありましたが、公的支
援を得ることで危機を乗り越え、現在は「公有民営」となっています

 日本と台湾の間の人的交流は年を追うごとにさかんになり、2016年には年間600万人以上(台湾
から日本へ429万人、日本から台湾へ189万人)の観光往来がありました。とくに、台湾の人口は
2300万人ですから、台湾人のじつに6人に1人が訪日したことになります。

 もちろん日本からの訪台も増え続けており、とくに九州・山口から台湾への高校生修学旅行は
2014年に12校・1200人だったものが、2016年には32校・5000人にまで拡大、海外の修学旅行先とし
てはトップになっています。

 600万人以上の観光往来のなかで、とくに鉄道関係は「人気沸騰」の一言に尽きます。日本・台
湾の両国で同好会までつくられ、鉄道旅の推進役ともなっています。

 台湾で人気の鉄道といえば、世界三大登山鉄道として有名な阿里山鉄道があります。戦前から阿
里山は、日本の技師・小笠原冨二郎が発見した樹齢3000年のタイワンヒノキが有名で、神木とされ
てきましたが、戦後はあまりに観光客が多いため腐敗が進み、1998年に切り倒され、現在は2代目
の神木になっています。

 阿里山鉄道は、日本統治時代に活躍した河合し(金へんに市)太郎という人物の貢献によってで
きたものでした。

 日本領台初期、日本は「地球最後の秘境」でもあった台湾の自然、民族、風習などを探検・調査
していきました。その結果、台湾の地勢、地貌、自然と社会の姿が、次第に明らかにされていきま
した。

 この時期の日本軍人や学者らの台湾探検・調査は、台湾のみならず、東アジアと東南アジアの自
然と社会を研修するための基礎となり、その後、近代産業を育むための資料として、多大な歴史的
貢献を果たしています。たとえば、シロアリなどの害虫研究が成功しただけで、産業が数倍にも成
長。こうした実例は非常にたくさんあります。

 そのひとつが、森林研究だったわけです。阿里山の原始林には多くの巨木が存在し、檜の宝庫で
もあることは知られていましたが、木材搬出の方法が見つからず手つかずのままにしてありまし
た。ちょうどそんな時、ドイツに留学していた河合し太郎と、外遊中の後藤新平が出会います。そ
のとき河合は、後藤に台湾の森林開発についての献策を語りました。

 これを機に、河合博士は帰国後の明治36年(1903)、後藤に請われて台湾林業行政に参画するこ
ととなり、阿里山の実地調査に乗りだしたのです。阿里山森林資源開発のために河合がまず検討し
たのが、山岳鉄道の利用でした。河合し太郎(1865〜1931)は、林学者、ことに森林利用学に精通
した人物です。東京帝大農学科を卒業後、林学博士号を取得。ドイツとオーストリアに留学、森林
利用学を学び、後の日本森林利用学の権威となりました。

 帰国後の河合は、東京帝大農学科の教授も務めるとともに、台湾総督府民政長官であった後藤新
平に招かれ、渡台した際に阿里山の森林鉄道敷設に尽力したのです。

 河合の学問的関心は広く、漢学と独語が堪能で、文才もあり、晩年になってからは哲学も研究し
ました。専門分野の林学では第一人者で、山林史にも興味を持っており、『測量学』『木材識別
法』などの著書があります。

 彼は、日本産主要広葉樹の肉眼識別法、木材強度および物理的性質の研究をはじめ、森林開発・
利用に新境地を開きました。

 そもそも阿里山森林の発見は明治29年11月13日でした。竹山撫墾署長、斉藤音作、本多静六林学
博士が率いる27人の新高山(モーリス山)登山隊が、東埔から八通関ルートを通って登頂する途中
に、本多博士は台湾紅檜の標本を採取しました。

 それを東京に送り、東京帝大松村任三教授に研究してもらった結果、明治34年に新種として認定
され、「台湾紅檜」と命名されたのです。その後の明治32年、石田常平が阿里山原住民の引率で、
広大な阿里山の檜木大森林を発見しました。これに驚いた総督府は、翌年から石田に加え小西成
幸、小笠原冨二郎、小池三九郎の4名を調査に出したのです。

 さらに明治35年、河合し太郎の実地調査を委託し、阿里山開発の計画を作成したことから、樹高
36メートル超、幹周り18メートルにも及ぶ長大材が出ることが分かったのでした。

 具体的には、海抜2000メートル以下は暖帯林で、それ以上は紅檜、2300メートルは扁柏と紅檜の
純林、2700メートルには栂、高根五葉が混じったような状況で原生していました。

 前述の、小笠原冨二郎が発見した阿里山神木は、樹高50余メートル、地面部樹幹34メートル、直
径6・6メートルを超える推定樹齢3000年の巨木でした。

 総督府は約160平方キロメートルの檜の大森林を入念に調査・計算しました。その結果、檜の巨
木のなかには台湾紅檜15万5783本、台湾扁柏15万2482本もあると判明。以来、阿里山森林の巨木伐
採が始まったのです。

 阿里山鉄道は、その木材運搬のために建設されたものでした。はじめ藤田組が林業調査と鉄道敷
設の計画起工を請け負いましたが、明治41年1月、工事半ばにして中止となり、その後の事業は総
督府に継承されました。そしてついに、大正4年(1915)、総督府の手によって本線の開通となっ
たのです。

 明治39年〜45年の6年をかけて、河合を中心に鉄砲水や資金難の困難を克服しながら、全長72キ
ロ、高度差2160メートルに及ぶ日本初の山岳(登山)鉄道をみごと完成させたのでした。これは当
時としては、世界三大登山鉄道のひとつとして話題となったほどの大事業でした。

 河合はその後、台湾北部の太平山や満蒙の森林開発事業にも携わりました。昭和元年(1926)に
東京帝大退官後は、木炭研究で煉炭を発明し、その健在ぶりをアピール。昭和6年に逝去した際に
は、訃報が阿里山鉄道起点の大都市嘉義にも伝わり、官民あげての盛大な追悼式が行われたほどで
した。その3年後、河合の功績を讚え、阿里山寺(現在の慈雲寺)境内に「琴山河合博士旌功碑」
が建てられました。

 阿里山鉄道は木材を運搬するために敷設されましたが、日本は単に伐採するだけではなく、保護
にも貢献しました。日本時代の森林保護の実態は、当時の小学生の「論文集」でも見ることができ
ます(東京新宿区の台湾協会文庫にも保存されています)。

 国民党政府時代、台湾の自然は次々と破壊され、木が盗伐されていきました。日本統治時代のよ
うな保護政策などを行おうとしなかったため、そのために禿山が増えてしまいました。

 中国人は森を破壊しましたが、日本は共生の道を選んだのです。もしも阿里山鉄道に乗る機会が
あれば、沿線の美しい木々を眺めながら、日本人の先人たちの偉業に思いをはせていただければと
思います。


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