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琉球華僑総会主催の歓迎晩餐会ご講話  李 登輝(元台湾総統)

昨日の本誌でお伝えしましたように、6月22日から沖縄を訪問されていた李登輝元総統は24日、摩文仁丘・平和祈念公園内の「台湾之塔」前で開かれた台湾出身戦没者を慰霊顕彰する「為國作見證碑」除幕式に臨まれましたが、ご体調が万全でなかったようで、ご挨拶を終えると、予定されていた植樹式などをキャンセルし、そのままホテルに帰って休息を取られました。

 果たしてこの日の夜に開かれる琉球華僑総会の歓迎晩餐会に臨席されるのかと、いささか気を揉んでいましたが、午後6時、曾文恵夫人を伴われてサザンビーチホテル&リゾート沖縄の会場に姿を現されますと、主催した同会の張本光輝(はりもと・みつてる)会長はじめ関係者はホッとした表情で出迎えました。

 謝長廷・台北駐日経済文化代表処代表や新垣旬子・日本中華聯合総会会長、國場幸之助・衆議院議員、本会の梅原克彦・常務理事、辻井正房・常務理事など約50人の参加者全員が立ち上がって拍手で出迎え、李元総統も少し柔和な表情で席に着かれました。ただ、まだ表情はかたく本調子ではないように見受けられました。

 しかし、15分ほどのご挨拶では、冒頭から「中国こそ、アジアの情勢を最も不安定にしている要因だと断言します」と、覇権主義的に発展してきた中国こそ「巨大な不安定要因」であり「周辺国家の安全保障にとって大きな脅威」と述べ、中国がアジアに不安をもたらしている元凶だと喝破。烈々たる気迫に会場は水を打ったようになり、参加者全員が聴き入っていました。

 また、台湾がこのような中国の最も大きな影響を受けており、「中国の最終目的は、台湾を併呑し、いわゆる『中国統一』を成し遂げることにある」とも指摘しつつ、「台湾が民主主義と自由を継続的に追求し、実践し、深化させていくことを続けてさえいけば、外来的な一切の圧力や干渉におびえることはないと信じております。そしていつの日にか、自分たちの国の名前によって国際社会に躍り出る日が来る」と持論を展開されたのでした。

 今年2月28日の喜楽島聯盟を発足させる記者会見でも、李元総統は「中華民国の国名を台湾に変え、新憲法を制定することで台湾の国家正常化を進めるべき」と力説されていました。

 つまり「自分たちの国の名前」とは、すなわち「中華民国」ではなく「台湾」のことを指しています。台湾という国名で国際社会に躍り出ようと「華僑」の方々を諭されたようです。

 このご講話の中でも「台湾の人々のなかには、中華思想に毒され、自我を失い、希望をなくしている人もいます」と述べ、また「幻の大中華思想から、脱却しなければならない」と繰り返し指摘されました。

 中華思想とは、台湾が進めてきた民主主義と自由とは真逆の考え方で、この中華思想を脱し、ともに民主主義と自由をさらに進めていこうと呼び掛けられたのでした。

 華僑の僑とは「外地に仮住まいをする人」という意味ですから、中華人民共和国か中華民国の国籍を持ちながら外地に仮住まいする人々(僑民)、または中華人民共和国か中華民国の出身で外地に住む人々と言っていいかと思います。

 一方、「台僑」という言葉も最近はよく使われていて、全日本台湾連合会(趙中正会長)が今年2月に開いた新年会は「2018年台僑新年会」でした。台湾出身で外地に住む人々の意で、台湾と限定しているところがミソです。

 李元総統は、琉球華僑総会が主催する歓迎晩餐会でしたが、ご講話では敢えて「琉球台僑総会」と使われています。李元総統は20年ほど前、総統時代に台北市内の小学校の講演で「中華は大嫌い」と明言したことがありましたが、いまもその思いは変わらないようです。

————————————————————————————-「琉球台僑総会」あいさつ

 琉球台僑総会の張本光輝会長、会場にお集まりの来賓の皆さま、会員の皆さま、こんばんは。本日、この沖縄で、たくさんの台湾出身の皆さまとお会いできますことを大変光栄に感じております。

 ご存じのように、日本と台湾の関係は非常に密接なものがあります。経済や貿易関係に始まり、科学技術、文化、観光、学術分野など、多岐にわたる分野で長年にわたり友好的な関係を築いてきました。

 台湾にとって日本は技術導入や投資を呼び込む重要なパートナーであり、第3位の貿易相手でもあります。また、台湾は日本にとって4番目の貿易パートナーであり、2017年における双方の貿易総額は、627億ドルにまで達しています。

 台湾の人々が最も好んで旅行先に選ぶのは日本です。昨年、日本に旅行した台湾人は456万人を記録しました。日本からも台湾へ190万人の人々が訪れ、訪台者数では第2位となっています。

 近年、台湾から日本へと留学する学生数は9千人あまり、日本から台湾へ学びに来る学生は1万人を超えていると聞きます。

 こうした事例を挙げるまでもなく、恐らくここにいらっしゃる皆さんは、私以上にさまざまな分野で日台間の密接な交流が行われていることをご存じでありましょう。

 もし、アジア各国が日台のように友好的、かつ建設的な協力関係を築き上げることができるのであれば、世界はより美しく、平和になることでしょう。

 ただ残念なことに、今日のアジアには巨大な不安定要因が存在すると言わざるを得ません。

 ご存じの通り、21世紀に入り、中国は経済、政治、軍事、科学技術などの各分野で目を見張るような発展を続けてきました。

 ただ、ここで指摘しなければならないのは、中国の発展は「覇権主義的」だということです。決して民主的、かつ自由な文明ではありません。

 その結果、アジアにもたらされた動揺は、周辺国家の安全保障にとって大きな脅威となっています。中国こそ、アジアの情勢を最も不安定にしている要因だと断言します。

 各国が有する軍隊は、自国の防衛のために存在します。しかしながら、中国の軍事力は対外的な膨張を続けてきました。昨年、中国の軍事費は2280億ドルを超えています。

 東シナ海や南シナ海の問題、各国の航行の安全と自由が侵害された例を挙げるまでもありません。

 中国は「アメとムチ」を用いて、ミャンマーやマレーシア、スリランカ、パキスタン、果てはアフリカのジブチにまで軍事基地を建設し、それによって生じる周辺国家との摩擦は途切れることがありません。

 こうした行為は地域のリスクを高めるとともに、アジア各国の軍事的支出を増加させることとなり、あたかも軍拡レースを助長することにもなるのです。

 中国が掲げる「一帯一路」構想は、野心に満ち満ちた覇権主義的な計画です。

 中国にとっては、自国の内部資源やエネルギー問題を解決するための方法となり得るでしょう。さらには、国際貿易上のルールを恣意的に決めることのできる格好の手段となり、他国を唯々諾々と従わせ、世界の新たな支配者に君臨しようとしているのです。

 これは中国の覇権主義に見られる一貫したやり方です。しかし、結局のところ、この計画は、多くの国家を中国の経済的植民地におとしめる方式と言わざるを得ません。

 ここへ来て、マレーシアは中国の覇権主義が自国へ及ぼすマイナスの影響に思い至ったようです。マハティール首相は、クアラルンプールとシンガポール間を結ぶ高速鉄道建設計画の中止を決めました。

 マハティール首相は東海岸に高速鉄道を敷く必要性に疑問を投げかけると同時に、高速鉄道の建設には何ら意味がなく、マレーシアに利益をもたらすことはないとしたのです。

 その他にも、中国が関係する大規模計画について、全面的に再審査するとも表明しています。

 中国の専制的なやり方に、最も大きな影響を受けているのは台湾です。中国は少なくとも1千発以上のミサイルの照準を台湾に向けています。領空侵犯や領海侵犯など、武力による軍事的恫喝は日常茶飯事とも言えましょう。

 外交においては、あらゆる手段を講じ、台湾と国交を有する国を奪い、台湾が国際組織に参加することを妨害しています。

 経済面では、台湾企業の工場から最先端の高度な技術を盗み、優秀な台湾の人材を引き抜くとともに、彼らに対し、自らの政治的思想を放棄して中国に忠誠を誓うことを強要するのです。

 中国は、金、権力、色を巧みに用いてわが台湾の同胞を抱き込み、台湾内部から分断を図ろうとたくらんでいます。

 中国は「中国の夢」という耳ざわりの良い言葉で大中華思想を喧伝し、「92コンセンサス」を作り出して台湾の政治的、経済的な発展を押さえ込んできました。

 「文武両面での威嚇」「武力による統一」「ビジネス面から政治への圧力」「台湾内部からの分断」など、さまざまなカードが絶え間なく切られています。

 中国の最終目的は、台湾を併呑し、いわゆる「中国統一」を成し遂げることにあるのです。

 私たちは、中国が台湾を矮小化することを恐れてはいません。私たち自身が台湾を矮小化することもできません。

 台湾の人々のなかには、中華思想に毒され、自我を失い、希望をなくしている人もいます。ただ、中国の覇権主義に屈することは、あまりにも短絡的であると言わざるを得ないのです。

 中国の覇権主義に直面する台湾は、自主的な思想を持たなければなりません。自分たちの道を歩む必要があるのです。

 私は『新時代の台湾人』という著書のなかで「民主改革を成し遂げ、民主国家となった台湾は、もはや民族国家へと後戻りすべきではない」と書きました。

 私たちは、幻の大中華思想から、脱却しなければならないのです。台湾の国民が持つ共通の意識は「民主主義」であって「民族主義」ではないのです。

 民主主義と自由は、人類の文明にとって最も重要な価値観でありましょう。それは同時に、私たちに平和と安定、繁栄と進歩をもたらす基盤となるのです。

 反対に、中国は民主主義や自由といった価値から遠く離れ、富と軍事力による、かりそめの繁栄を喧伝しています。

 「偉大なる中国の夢」という言葉で国民を欺き、愚弄している中国政府の目的は、ただただ独裁体制の維持と安定にすぎないのです。

 多くの中国人が言うように、中国の人々には本当の自由というものがありません。不安と恐怖というものを心の奥深いところに押し込めています。

 私はここで改めて中国政府に呼びかけます。

 「台湾は今も、これからも、中国の敵ではありません。中国にとって最大の敵は『本当の民主主義』『本当の自由』でしょう。そして台湾こそ、この『本当の民主主義、本当の自由』の代名詞なのです」と。

 台湾が代名詞になりうることは、台湾人のみならず、全世界の自由民主国家が明確に認めていることです。

 いかにして、中国の人々に永続的な民主主義と自由を与えるか、いかにして中国の人々が永遠の幸福を追求できるか、こうした課題こそ、中国政府が積極的に考えなければならない問題ではないでしょうか。

 世界の強国となりたければ、それは決して覇権主義の発露ではなく、普遍的な価値観を有する文明の実現によって成されるべきだと思うのです。

 台湾の民主主義と自由は、もはや全世界が称賛するモデルにまでなっています。

 私は、台湾が民主主義と自由を継続的に追求し、実践し、深化させていくことを続けてさえいけば、外来的な一切の圧力や干渉におびえることはないと信じております。そしていつの日にか、自分たちの国の名前によって国際社会に躍り出る日が来ることになりましょう。

 以上で、本日の私のお話を終わります。

 ありがとうございました。


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