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海自潜水艦訓練の戦略的意味  川村 純彦(元統合幕僚学校副校長・海将補)

防衛省は9月17日、海上自衛隊の潜水艦「くろしお」を南シナ海に派遣し、東南アジア周辺海域で長期訓練中の護衛艦「かが」「いなづま」「すずつき」の3隻と合流し、護衛艦や艦載ヘリコプターがソナーで潜水艦を探索する一方、潜水艦は探知されないように護衛艦に接近する実戦的な訓練を行ったと発表した。

 産経新聞は「実任務に就く潜水艦の南シナ海での訓練が公表されたのは初めて」「海自が秘匿性の高い潜水艦の行動を公表するのは異例。あえて対外的に明らかにすることで、日本の存在感と運用能力の高さを示し、南シナ海での権益を主張する中国を強く牽制したい考えだ」と報じている。

 世界日報が、訓練を公表した意図やその戦略的な意味について、対潜哨戒機パイロットや駐米日本大使館防衛駐在官などを歴任した川村純彦氏にインタビューしている。

 川村氏は、防衛省が異例の公表をしたことについて「海自の潜水艦は静粛性に優れ、中国海軍ではとても探知できない」と指摘、潜水艦「くろしお」の動きを探知できなかった可能性を示唆している。安全保障問題に詳しい専門家もまた「日本の潜水艦の運用能力の高さを誇示する必要はさらさらないが、中国海軍が『くろしお』に気がつかなかったことを暗に示すことで中国を牽制したのではないか」と同様の指摘をしている。

 米国が「航行の自由」作戦を実施すると猛然と噛みつく中国側が、今回は日本の名を挙げることなく「地域の平和と安定を損なうことはすべきではない」と発表するにとどめている。やはり「くろしお」を探知できなかった可能性が高い。探知していたにしても、有効な対応ができなかったのかもしれない。

 なお、小野寺五典・防衛大臣は「南シナ海での潜水艦が参加する訓練は15年以上前から幾度となく行っている。昨年、一昨年にも実施している」と述べ、この発言も中国側を牽制したと言えよう。

————————————————————————————-海自潜水艦訓練の戦略的意味 元統合幕僚学校副校長・海将補 川村純彦氏【View point「インタビューFOCUS」:2018年9月24日】

 海上自衛隊の潜水艦「くろしお」と護衛艦「かが」など3隻が今月13日、中国が軍事拠点化を進める南シナ海で訓練を実施した。防衛省が秘匿性の高い潜水艦の行動を明らかにしたのは異例。訓練を公表した意図やその戦略的な意味について、元統合幕僚学校副校長・海将補の川村純彦氏に聞いた。(聞き手=編集委員・早川俊行)

◆南シナ海の独占許さず 中国海軍への強力な抑止力

── 訓練を公表した狙いは。

 中国が最近、南シナ海で国際法に対する非常に挑戦的な行動を取っており、それに対する牽制(けんせい)だ。大陸国家である中国の指導者は、海も陸地と同じように国境線を引き、ここまでは自分たちの領域だと言えると考えている。しかし、領海は自国の海岸線から12カイリまでだ。海自が南シナ海で訓練を行ったのは公海であり、誰にも断る必要がない。「ここは中国の海ではない」ことを示したのだ。

 中国が南シナ海で主張する「九段線」は、国際的に全く認められない。「航行の自由」作戦を展開する米国だけでなく、英国やフランスも南シナ海に艦艇を派遣した。ここは自分の庭だと宣言して他国の船の航行に制限を加えるような行動は認めないという国際的な意思を表示したものだ。

 潜水艦の行動は極めて秘密度が高く、通常は一切明かさない。乗組員の家族でさえ、夫がどこに行き、いつ帰ってくるかも知らない。それだけに公表したのは異例なことだ。

── 海自の潜水艦が南シナ海でも行動できる能力を示した意味は。

 中国は南シナ海でわが物顔で振る舞っているが、そこに潜水艦が1隻いるかもしれないと考えるだけで勝手な行動は取れなくなる。これは大変な抑止力だ。海自の潜水艦は静粛性に優れ、中国海軍ではとても探知できない。

 米国と日本の潜水艦は、中国の戦略原潜が出てきたら必ず追尾しているはずだ。また海自の対潜戦能力は米国と並び世界でナンバーワンだ。中国の潜水艦もだんだん音が小さくなっているのは事実だが、世界最高レベルと比べるとかなり劣る。潜水艦の能力は一朝一夕に向上できない。現時点では、日米で中国の潜水艦を抑え込めると思う。

── くろしおは訓練後、ベトナムの軍事要衝カムラン湾に寄港し、護衛艦部隊は東南アジア周辺 海域で長期訓練を行っている。

 日本と東南アジア諸国の関係は強まってきている。日本は東南アジア諸国に巡視船を供与しているほか、軍事的なアドバイスも提供している。

 オーストラリアに加えてインドも最近、日米との連携に前向きだ。欧州からも英国やフランスが艦艇を送った。これは海洋の自由を守るための国際的な結束だ。日本のシーレーン防衛にも直結する問題であり、中国による南シナ海の独占を許してはならない。

── 米国が「航行の自由」作戦を展開しても、中国による南シナ海の軍事拠点化を止めることが できていない。

 西側の海軍艦艇が中国の人工島近くを黙って通り過ぎるだけでは不十分だ。人工島の12カイリ内で訓練を行うなど積極的な拒否行動を取らないと意味がない。

 それでもトランプ政権の対応は、オバマ前政権に比べればはるかに評価できる。オバマ政権が中国の人工島の造成をいわば放置したために今の状況が生まれたのである。

             ◇     ◇     ◇

川村 純彦[かわむら・すみひこ]昭和11年(1936年)、鹿児島市生まれ。同35年(1960年)に防衛大学校(第4期生)卒業後、海上自衛隊入隊。対潜哨戒機パイロット、駐米日本大使館防衛駐在官、第5(那覇)及び第4(厚木)航空群司令を歴任後、かつての陸・海軍大学校を統合した学校に相当する統幕学校副校長として高級幹部教育に従事。平成3年(1991年)、海将補で退官。主な著書に『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』など。共著に『「核武装」が日本を救う』『国防論』など。現在、川村研究所代表、日本戦略研究フォーラム理事、日本李登輝友の会副会長、日米台の安全保障等に関する研究会座長。


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