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台湾の主人公は誰なのか  浅野 和生(平成国際大学教授)

台湾の主人公は誰なのか 「島に来た順」を忘れず 就任1周年の蔡英文政権
平成国際大学教授 浅野 和生
【世界日報:2017年5月11日「View point」】

 来る5月20日で、台湾の民進党・蔡英文政権が就任から1周年を迎える。

 1年前の就任演説で、蔡英文総統は台湾が必要とする「問題解決」のため、全国民に対して「こ
の国の未来を共に担っていく」ことを呼び掛けた。また、総統の役割は、国全体を団結させ、団結
によってイノベーションを実現させることであるとし、「先入観および過去の対立を棄て」新しい
時代に向けて台湾国民の使命を、共に引き継いでいくことを訴えた。

 蔡英文総統は、就任演説で五つの主要政策を掲げたが、その中で「社会の公平と正義の実現」
は、特に重要な政策であった。

 その一つは、国民党のいわゆる「不当党産」の処理である。

 戦後、日本が台湾に残した不動産等を接収するなどして巨額の資産を築き、「世界で最も金持ち
の政党」と呼ばれた野党・国民党であるが、その党資産の調査や返還要求のため、昨年7月下旬に
「政党およびその付随組織の不当取得財産処理条例」を成立させた。それらの資産は、元来国家に
属すべきもので、国民党が私すべきものではないということである。

 同条例の執行のため、8月31日に行政院(内閣)の「不当党産処理委員会」が発足した。同日、
委員会の設置に加えて、国民党を含めた各政党やその関連団体に対して、1945年8月15日以降に取
得した資産を、条例施行から1年以内、本年8月10日までに報告することが義務付けられた。なお、
委員会が「不当取得」と認定した財産は、国や地方自治体、元の所有者への返還が求められる。

 このほか、蔡英文総統は就任演説で、先住民族の問題に「お詫びの姿勢で」向き合うことを約束
した。その中で、台湾という「島にやって来た順番」を忘れることはできないとし、先住民の歴史
観の再構築、段階的な自治の推進、言語文化の復元と育成、生活ケアの向上を掲げた。

 台湾の民族構成は複雑である。全人口2354万人のうち、最大多数を占めるのは、17世紀から日本
統治期までに福建省から台湾に移住した福●人で、およそ70%とされ、次いで福●人に少し遅れて
移住を始めた広東省の客家人が約15%と見られている。これに対して、日本が第2次世界大戦で敗
北した後、1945年10月に台湾を接収した蒋介石国民政府軍および同関係者、さらに49年に共産党に
敗れた国民党政府が同年12月に台湾に移転するのに伴って台湾に移った国民党、同軍とその関係者
といういわゆる外省人が、およそ13%という。

 李登輝総統による民主改革が成就するまで、戦後の台湾では長期にわたって、少数派の外省人が
政治、行政、軍その他において台湾社会で支配的な地位を保っていた。

 一方、先住民族は、16世紀までに台湾に居住していたさまざまな種族のことだが、紀元前3500年
頃には今日に連なる人々が居住していたことが確認されている。その総数はおよそ55万人、全人口
の2・3%ほどである。

 昨年8月1日、蔡英文総統は、総統府において「先住民族の日」の式典を挙行し、先住民族は過去
400年にわたってさまざまな政権によって不公平な扱いを受けてきたが、「総統として謝罪するこ
とは先住民族こそがこの土地の主人であることを尊重するばかりでなく、問題に向き合って解決を
目指すスタートになる」と述べた。さらにこの日、総統府に「先住民歴史的正義と『移行期の正
義』委員会」を設置して、総統自らが座長となることを宣言した。これに基づいて12月27日、蔡総
統は総統府において、「原住民歴史正義和転型正義委員会」予備会議を主宰、同委員会の委員らに
任命状を授与した。既に行政院院会(閣議)で「先住民族言語発展法」草案が承認されたので、立
法院(国会)での迅速な審議を希望するとともに、近いうちに平埔族(平地先住民族)の言語も同
様に尊重されるよう期待を寄せた。

 以上のように、蔡英文政権は、台湾がもともと、先住民の島として始まったことを直視し、尊重
している。かかる観点からすれば、戦後に大陸中国から国民党とともに移住してきた外省人はもと
より、17世紀から移住してきた福●人も、客家人も、台湾に後からやって来た人にすぎない。そう
だとすると、台湾はもともと漢人、つまり中国人のものではなく、従って中国固有の地であるとい
う「先入観」は否定されることになる。

 このような歴史観は、父が客家系、母が福●人系、祖母が原住民のタイヤル族という蔡英文総統
にとっては、自然なものであるかもしれない。(編集部註参照)

 日本統治の経験も含め、台湾の歴史は最初から今日まで中国とは異なるもので、台湾は元来、大
陸中国と一体不可分ではない。かかる認識に立てば、台湾が中国に併呑されなければならない必然
性はないことになる。

 蔡英文政権は、対中国「現状維持」政策を掲げているが、その先住民政策は、中国の主張する
「一つの中国」原則の基礎を掘り崩すものである。

                                   (あさの・かずお)

●=福[人老](ホーロー)。河洛とも。

編集部・註1:

 福●人=河洛人、◆南系台湾人とも言われ、◇州、泉州、厦門など福建省南部の◆南地方を出身
 とし、台湾語(◆南語、福●語、河洛語)を話す人々。

 ◆=門の中に虫。◇=サンズイに章

編集部・註2:

 蔡英文の父親の蔡潔生は屏東縣枋山郷出身の客家人。母親は河洛人の張金鳳。蔡英文は祖母につ
 いて「祖母は、近所にある(屏東縣)獅子郷のパイワン族の住民の血統」と記し、「原住民の祖
 母、客家の父、そして河洛人の母─私は自分の温かい皮膚の下に、多元的で、豊かなパワーが満
 ち溢れていることに思いを馳せた」(自著『蔡英文自伝』、白水社、2017年2月)と記している。


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